リレーコラム

      ここでは、データヘルス計画に関わる管理者や専門職などの方々に、データヘルス計画の策定や保健事業の実施についてうかがった話をコラムとして掲載しています。

      Part1:SGホールディングスグループ健康保険組合におけるデータヘルスの取組とデータヘルス計画の策定

      SGホールディングスグループ
      健康保険組合:田浦課長(保健師)※
      ※取材当時の肩書

      Part2:データを戦略的に活用できる健保を目指して

      イノアック健康保険組合:
      名倉常務理事

      Part3:事業主、他組合との連携促進に向けて

      北陸電気工事健康保険組合:
      辰巳事務長

      Part4:健康ムーブメントの実現へ

      コニカミノルタ健康保険組合:
      渕上事務次長 大西氏(保健師)

      Part5:データヘルスのさらなる発展と有効活用に向けて

      日本航空健康保険組合:
      田口 常務理事

      Part6:営業職に切り込む!共同事業による新たなチャレンジ

      グラクソ・スミスクライン健康保険組合:
      住田常務理事

      Part7:事業主との距離を縮め、健康管理を手厚くサポート

      東京薬業健康保険組合:
      金澤専務理事 樫本企画部長 岩見企画課長

      Part8:コラボヘルスにおける健保組合の役割

      オムロン健康保険組合:
      谷口常務理事 佐藤事務長

      Part9:職員・事業主・加入者を動かす“仕掛け”と“環境づくり”でデータヘルスを推進

      パナソニック健康保険組合:
      加藤常務理事 木下健康開発センター データヘルス推進担当部長

      職員・事業主・加入者を動かす“仕掛け”と“環境づくり”でデータヘルスを推進

       パナソニック健康保険組合は、「従業員と家族の健康と安心を高めることが会社の発展に繋がり、延いては社会・国家の反映にも通ずる」というパナソニックグループ創業者 松下幸之助氏の所信のもと、1937年に設立された単一健保であり、80年以上の歴史を持つ国内有数の健保組合です。加入者数は約32万人、うち被保険者数は約16万人であり、特例退職被保険者も2万人ほど加入しています。
       パナソニック健保組合では、「健康日本21」に呼応する形で、2001年から一次予防に力点を置いた「健康松下21」(現在の「健康パナソニック」)をスタートさせ、以来会社、労働組合、健保組合の三位一体で従業員とその家族の健康づくりに取り組んできました。これらの取り組みを先導してきたパナソニック健保組合の加藤進治様、木下健次郎様にお話をうかがいました。

      (2019年7月22日掲載)

      1.データヘルスの機運に乗じて保健事業を拡大

       パナソニック健保組合は設立以来、一次予防・保健事業に力を入れてきましたが、一時財政が悪化した時期に、保健事業を縮小していた時期がありました。例えば、従来健保で実施していた被扶養者の健診については自治体で受けていただくことにしたのですが、それを境に当時60%以上あった被扶養者の健診受診率が特定健診開始の2008年には10%以下にまで落ち込んでしまいました。
       そのような中、日本再興戦略において全ての健康保険組合に対して2015年からの「データヘルス計画」の作成、事業実施、評価等の取組みが求められることとなりました。健保としてこれを好機と捉え、保健事業に必要な予算を投じることができるようになり、被扶養者の健診受診率も43%まで回復しました。
       データヘルスという国の制度に乗って、健保組合のスタッフ、事業主、加入者の意識を合わせる流れ(仕掛けや環境)を作れたことが奏功したと考えています。2001年から始めた会社、労組、健保が三位一体で健康づくりを行う「健康松下21」運動も、当時政府が掲げた「健康日本21」を受けて開始したものです。国の方針に基づいて、理事会や組合会、事業主に健保組合の取り組みの重要性をアピールできたことが、保健事業の推進にとって重要なポイントになったと考えています。

      パナソニック健康保険組合:
      左から木下健康開発センター データヘルス推進担当部長、加藤常務理事

      2.安全衛生委員会を起点としてコラボヘルスを実現

       パナソニック健保組合は、これまで事業主の産業保健活動と密に連携して取り組みを進めてきました。現在は、加入者全般の健康づくりを推進する健康開発センター、健康管理室を起点に事業主と被保険者の健康づくり・疾病予防を担う産業保健センターが中心となって、データヘルス計画を推進しています。
       現在、健康管理センターは、全国158カ所の事業所の健康管理室を事業主から委託を受けており、そこには健保組合所属の医療専門職が勤務しています。
       当健保がデータヘルス計画の最重要テーマとして位置づけたのが、被保険者の特定保健指導実施率向上対策でした。まず、特定保健指導の重要性を会社、労組と共有し、特定保健指導を定期健康診断の事後措置(精密検査)として位置づけ、勤務時間内での実施を基本としたことです。その結果、被保険者の特定保健指導実施率は2015年度24%であったものが2017年度には50%と大きく向上しました。
       また、健康管理室スタッフが特定保健指導を実施した場合は、事業所の健康推進活動の費用補助として安全衛生委員会へのインセンティブをつけました。それにより、多くの安全衛生委員会の場で特定健診・保健指導率が議題に上がるようになり、実施率の向上につながりました。
       安全衛生委員会という既存の制度をうまく活用できたことが、特定健診・特定保健指導をはじめとした保健事業が成功したポイントだと思います。 また、特定保健指導実施率等のKPIが健康経営のベースになることを会社側にきちんと伝えることも、データヘルスの推進に繋がったと考えています。

      3.データヘルス・ポータルサイトが関係者間の情報共有ツールに

       パナソニック健保では、2015年から始まるデータヘルス計画実施に備え、2014年から常務理事・部門責任者(医師3名、保健師1名、事務職6名の委員)からなるデータヘルス委員会を立ち上げました。
       データヘルス委員会では、毎月、データヘルスの事業方針・内容の決定、事業の進捗管理・評価、各部門の計画の整合性を図る活動などを行っています。各部門がそれぞれ計画を立てて、それらを共有するためのツールとして、データヘルス・ポータルサイトを活用しています。第1期では、各部門がポータルサイトに事業を入力することで、数多くの保健事業を実施していたことを改めて確認できました。また、当健保では「現役本人」と「家族・OB」は同じ保健事業でもそれぞれ対象者毎に実施部門が異なりますが、お互いの部門の取組内容の実施状況や課題などがポータルサイトを通じて組織横断的に共有できるようになったことから、健診機関の検討や保健指導の実施方法改善など組織間連携もスムースかつ効果的に行えるようになり、事業の重複や協働の余地などを把握することができました。そして、第1期の状況を踏まえ、第2期計画では、保健事業の集中と選択によりし、スリム化することもできました。

      4.データヘルス・ポータルサイトへの期待

       データヘルス・ポータルサイトは、各部門の計画のとりまとめや共有ツールとして有用だと感じています。フォーマットが決まっているので、各部門が同じ基準で報告できる点が良いと思います。今後は、さらに健保組合間の情報共有ということで、SNSのように健保組合同士が双方向でやり取りできる仕組みがあると有用なのではないかと思います。また、自組合の取組みをベンチマークしたり、自組合の課題が把握したりできるような「共通指標」がポータルサイト上で見えるようになると、より活用の幅が広がると思います。
       ポータルサイトを、単に計画を登録するだけの箱にしてしまうのではなく、保健事業を推進する上で各健保組合が有効活用できるようなツールに発展させてほしいと考えています。